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天との通信
森脇佐和子
ISBN:4-8355-4756-X
定価:
1,260円 (本体 1,200円)
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ガンとなり、ガンを告知された父親の本音の姿、そこを経ての父への思い、ガンを知り尽くしている看護婦の母の父へのクールな予見の果ての愛と核心を叩きこんでいる作である── ただし、おのれに羞じらいを知るゆえにブレーキをかけ、必要なだけのエッセイと、過剰にならぬ詩と、少しは喋り語のあっさりした短歌で構成され、実に深刻なのに、とても明るい作品である。
この魅力を、生き馬の目を抜くテレビマンは見逃さず、この作品は、去る8月17日、石川梨華・渡辺謙・風吹ジュンらの演技によって日本テレビで放映された。
版元の文芸社のホームページにおけるインタビューで、著者の森脇佐和子さんは、「(父の)お墓を建てるかわりに、父の生き様を本としてまとめよう」と思ったといっている。それを、高校の授業で森脇さんは原稿にして自費出版したそうだ。そしたら、お母さんが勝手に文芸社に送り、もっときっちり大大的に出版されたという。新約聖書に、イエスの言として「求めよ、さらば与えられん」旨が記されているはずだが、こういう意欲というのはひどく大切と思わせる。因みに森脇佐和子さんは1977年生まれと若く、現在は三重県の伊勢戦国時代村で役者として活躍、同時に『笑撃武芸団(しょうげきぶげいだん)』というイベントチームを作りあげているそうな。
ガンと真向かう小説、ノンフィクション、手記は氾濫している。現代人が60年前までの日本人のように、戦争、流行の病、天災であっけなく死ぬことがなく、病床でうめきながら死ぬのが普通になっていて、ガンはその最ものターゲットであるからだろう。おのれの死に、やはり、思い入れができてくるのである。そこへいくと、この本は、娘が父の闘病を看取る形であり、死者本人の自意識などより、当り前ではあるが、父との切実なる身体的、感情的、心情的交流が標的となり、そもそも人間としての交信、思いの膨れあがり、愛と悲しさの冷静なるやり取りが浮かび上がる構図となっている。ここいら、森脇佐和子さんの才というよりは企画のしなやかなるパワーがある。これから本を出す若者は、森脇佐和子精神というか、志というか、しっかと見習うべきと考えた。
父親のそれ自体の生も、ドラマーを志願し、「ケンカの仲裁に入り、指のスジを切断。ドラマーとして致命傷」と記すのみでなく、暮らしの断面を書き、だからこそ「この父が」と説き伏せてくる。51歳で「ほな、逝ってきまっせ」という父親であるが、やはり、早い死で、当方57歳、うわっと泣いてしまう箇所が3つばかりあった。父の死後の残された者の生活が描かれているのも、評者のおれの死後を思わせ、心を和ませ、変に嬉しい気分へと導く。厳しく切ないピークは、作者の創作としても、母が父に書くレターで
「私はこの20年間、貴方に育てられました」というところ。
こんな娘を持ったら、どんな幸せか。現代版・道徳の書ともなり得ている。
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| 書評家プロフィール |
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小嵐九八郎
(こあらし・くはちろう)
作家・歌人
1944年秋田県能代市生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業。通算で5年余り刑務所生活を送る。小説『刑務所ものがたり』(文藝春秋、吉川英治文学新人賞受賞)、『癒しがたき』(角川書店)他。エッセイ『蜂起には至らず』(講談社)など。歌集『叙事がらりや小唄』(短歌研究社)他。近著に、小説『ふぶけども』(小学館)とエッセイ『妻をみなおす』(ちくま新書)がある。
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