小嵐九八郎の書評コーナー
実践リーダーシップ「リーダーは君だ!」
新里聡

ISBN:4-8355-5656-9
定価: 1,404円 (本体 1,300円)
タイトルの「実践リーダーシップ『リーダーは君だ!』」とか、サブ・タイトルの「リーダーシップ実践のための12のステップ」とか、帯の「個人へそしてビジネス社会へ、人気ファシリテーターが贈る珠玉の一冊」とかを読み、かつ、ぺらぺら捲ると、読者へのいろいろな設問があり、これは苦手の領域だなあと怖じ気づいた。作家という職業は、あんまり組織とは関りないし、白樺派の大作家の志賀直哉が、ついには警察によって拷問死をさせられた小林多喜二に「主人持ちの文学は良くない」と評価した上で忠告している通りで、つるむと碌でもないことが起きる。歌人は普通は結社や同人誌に属するが、短歌自体を醜くするほどにボスに忠実で弟子の“格”争いに熱中する。だから、第二の寺山修司みたいな歌人は出にくい。
 ところが、構えてこの本を読みはじめていくと、ふうむ、「リーダーシップ」の概念の懐がかなり広く、根っこも掘り下げていて、むしろ、悩める人、自信のない人、力があるのに発揮しようとしない人やできない人などが“積極的に生きる”ものとして捕えられていると気づく。そのうち職業柄、人間の弱さや駄目さや悪に目を向けたがるおれも、あ、これは、広汎な意味の生の哲学書と分かってきて、すとんと引きずりこまれてしまった。
 例えば、「自分の思考傾向をチェックしよう!」では“自らを知る”という東洋では孫子、西洋ではソクラテス以来の至言が、至言を用いることなく現代の日常の言葉で日常の性格の傾向で語られていく。「完全主義がもたらす周囲への影響?ガンバリズムはみんなを疲れさせる」の項を見れば、単純に企業で会社に心中するまで働けなどというのとは無縁と読み手にはわかる。
 精神分析的な手法で、ストレスやそこを認めての解放への道も説き明かされている。「ナンダカ症候群」「ナンダカ・ボーダー」などと危機を呼ぶ精神医学の本よりは丁寧だし、分かり易いし、実践的であろう。
 当方に能がなく、他者との付き合い方といえば、かみさんには頭を垂れる、娘二人には威張る、編集者には“奴隷”となるということしかしない世界に対しては、もっと、説得力を持って著者の新里聡さんは読み手に密着してくる、「高すぎる自尊心の落とし穴に要注意!」などと。作家や歌人には、実に、核心的アドバイスである。勿論、組織人にも然りであろう。
 そして、個人を動かすものとして、「理念(ミッション)」が語られ、壺へといく。自分の幸せが他人の幸せへ、他人の幸せが自分のものに、それも、古代中国の哲学書である荘子のごとき「宇宙の摂理」として、変に力みのないものとして。
 命運尽きそうなサダム氏、自発性ではなく恐怖で支配する金正日氏、世界は近代兵器によってアメリカなりと思っている某国大統領がこれを読んでくれたならと思う。
 書評家プロフィール
小嵐九八郎
(こあらし・くはちろう)
作家・歌人
1944年秋田県能代市生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒業。通算で5年余り刑務所生活を送る。小説『刑務所ものがたり』(文藝春秋、吉川英治文学新人賞受賞)、『癒しがたき』(角川書店)他。エッセイ『蜂起には至らず』(講談社)など。歌集『叙事がらりや小唄』(短歌研究社)他。近著に、小説『ふぶけども』(小学館)とエッセイ『妻をみなおす』(ちくま新書)がある。
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