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「本を書きたい」人が読むブログ
「本を書きたい!」「本を出版するには?」と思っても、何からはじめたらいいか、わからないことがワカラナイ――という方も多いでしょう。当コーナーでは、小説を書くうえでのポイントや、読み応えのあるエッセイの文章構成、評価される詩の共通点などを、具体的な事例とともに解説。
本になる前の原稿を数多く読んできた文芸社ならではの視点で、あなたの一文が作品に生まれ変わるまでのお手伝いをいたします。

恋愛小説をスケールアップする定理

2017年02月25日 【小説を書く】

まずは、恋愛小説の醍醐味について考える

『ロミオとジュリエット』、『ジェーン・エア』、『風立ちぬ』、『世界の中心で、愛をさけぶ』に『サヨナライツカ』……。古今東西、男女の恋は小説の普遍的テーマとされてきました。ラブストーリーとは、主人公たちの心の内側を深く覗き込み、その恋のなりゆきに感情を重ね合わせて味わう点に最大の興趣があるといえるでしょう。名作と呼ばれる作品となれば、家族や地位・身分、宗教、社会風潮など、個人やその人生に宿命的にまといつく数々のしがらみ、障壁が恋の成就を阻み、ときに悲劇をもたらして、恋愛感情への共鳴を越えた複雑かつ深遠な感動へと導いてくれるものです。

しかし、「等身大の青春恋愛小説」や「深遠で感動的な恋愛小説」は数多存在するものの、「スケールの大きな恋愛小説」とか「血沸き肉躍る恋愛小説」といった惹句や賛辞はあまり耳にしませんね。これは意外といえば意外です。なぜって「あいつぁ、ちいせえ男だ」などと言われて喜ぶ者がまずいないように、私たちは概して“大きい”ことを好み、評価する傾向があるからです。スケールの大きな物事は人をどよめかせ、魅了します。大きな度量、広い心は安心感と憧憬を誘います。だからそう、“大きなもの”とは、心地よく快いものなのです。一見限られた舞台で演じられるかのように思える「恋愛小説」というジャンルでも、また然り。優れた恋愛小説を書くために、“大きさ”だって、積極的に取り入れたいひとつの設定といえるでしょう。

あの不朽の名作“以降”

そこで、「スケールの大きな恋愛小説」の実例を考えてみましょう。近現代になると、スケールの大きなラブストーリーがお目見えするようになりました。その嚆矢と位置づけられるのが、『風と共に去りぬ』です。1936年に出版されるや世界中にベストセラー旋風を巻き起こし、翌年ピュリッツァー賞に輝いたマーガレット・ミッチェルの不朽の名作です。80年以上も前の作品だというのに、過去50年のセールスランキングでもトップ10入りするなど、いまだ冷めやらぬ人気を誇ります。ところで世界的なブームとなったさなか、南北戦争とその後の再建時代を題材にしているこの作品が、「歴史小説」と見るべきか「恋愛小説」と見るべきかで、論争がもち上がったことがあります。歴史小説としては重厚性や洞察に欠け、メロドラマに過ぎないとする批判が起きたのですね。ブームに冷や水を浴びせる人はどの時代にもどんな国にもいるわけですが、「能書きなどお呼びじゃないわ、壮大なメロドラマで結構よ」とばかりに本は売れつづけ、未曾有の金字塔を打ち立てます。

こうした作品の台頭が、その後の恋愛小説シーンを変えるひとつの契機になったのではないかと考えます。『風と共に去りぬ』という存在が急先鋒として働き、大河ロマンと呼ばれる広大な舞台立てや、ラブストーリーに冒険の要素を加味した作品がもつ娯楽性に陽が当たりはじめると、以降、もはやラブストーリーは恋人同士の周辺世界に留まるものではなくなりました。「恋愛小説」というジャンルは、躍動感に富んだタペストリーの鮮やかな一モチーフさながら、ヒロインとヒーローの恋が物語の中心で輝くいっぽう、ストーリーは長大、舞台づくりは重厚、激動の時代的背景や入り組んだ群像劇を内包した、パノラマスケールのジャンルとしても認知されるようになってきました。

世界を股にかける魅力とパワーに溢れたヒロインたち

そんな後発の代表的一作として挙げたいのが、『アンジェリク』です。『風と共に去りぬ』のヒロイン像に刺激されたフランス人作家アン・ゴロンが、1957年に執筆を開始しました。「執筆しました」ではなく「執筆を開始しました」としたのは、17世紀のフランスとアメリカを舞台に、没落貴族の娘として生まれ数奇な運命を背負った「アンジェリク」の半生を描いた本作が、なんと文庫本26冊にもおよぶ一大長編小説だからです。太陽王ルイ14世の支配する宮廷から海賊の跋扈する地中海へ、宗教弾圧に抵抗する反乱軍に身を投じ、追手を逃れて渡ったアメリカでは、フランスとネイティブアメリカンとの戦争が勃発……と、激しい動乱の背景は物語上の脚色ではありません。17世紀とは、飢饉、戦争、内乱の相次ぐ時代だったのです。宮廷の陰謀によって処刑されたはずの夫の伯爵の生存を固く信じるヒロイン・アンジェリクの愛と冒険の物語は、そんな暗く危険な時代の光明かのように紡がれたのでした。

『時の旅人クレア』にはじまるアウトランダーシリーズは、ダイアナ・ガバルドンが1991年に発表した処女小説で、こちらもいまや20冊を越える超大作にまで育ちました。物語は、第二次世界大戦後のスコットランドの田舎にはじまり、従軍看護師であったヒロインのクレアが、ストーンサークルによって18世紀なかばにタイムスリップする――という設定が採用されたファンタジーロマンです。舞台はスコットランド、フランス、アメリカとこちらも世界を股にかけ、ジャコバイトの反乱、アメリカ独立戦争などの歴史を濃密に映し出しながら、時空を越えた比類ない男女の絆を浮かび上がらせます。作者ダイアナ・ガバルドンは大学の助教授。小説執筆をふと思いつき、研究者らしい緻密さで歴史を織り込んで発表した『時の旅人クレア』上・中・下巻が人気を呼んでシリーズ化され、世界的なベストセラー作家の仲間入りをしました。壮大なスケールのラブロマンスを、タイムスリップというSF手法を取り入れて描いたこのシリーズ作品は、『風と共に去りぬ』や『アンジェリク』同様に、後世もまさしく「時」を越えて読者を魅了してくれるものと期待されます。

「恋愛小説スケールアップ」の定理とは

ヒロインばかりに注目してきましたが、ヒーローのほうは影が薄くていいのかといえば、いえいえ、とんでもありません。個性的なヒロインには、スカーレット・オハラとレット・バトラーがそうであったように、存在感あるヒーローが“つがい”で取り合わせられなければ、物語の魅力も評価も半減することでしょう。重厚な時代背景と大河の流れ、複雑な魅力を放つヒーロー・ヒロイン。これらが恋愛小説をスケールアップする要素と考えてもよさそうです。壮大なスケールの小説を書くために、志も想像の翼も広く大きくもとうではありませんか。そんな本を出したいあなたには、こんな言葉はいかがでしょう。

世界は君たちに大きく開かれている。どしどし遠慮なく進むがいい。大地は広々とつづき、空は広大無辺にひろがっている。
(ゲーテ『ゲーテ詩集』大山定一訳/小沢書店/1996年)