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草思社・文芸社による2社共同の文芸賞が「草思社文芸社大賞 2024」として再始動。
作者自身の体験に基づく作品を幅広く募集します。
「草思社文芸社大賞」は、2016年の文芸社創立20周年を記念して産声をあげた『草思社・文芸社W出版賞』を前身とする新しい文芸賞です。応募対象をメモワールやノンフィクションにしぼり、作者自身の体験に基づく「回想録」「自叙伝」「手記」「論考」「自伝的小説」を募集。特異な体験、稀有な経験のなかから得られたリアリティの宿る作品をお待ちしております。新書のように、専門領域や時事的な題材を一般読者向けに書いた教養書も歓迎いたします。大賞受賞作は、草思社ないしは文芸社から全国出版されるほか、受賞作には副賞として賞金60万円が贈られます。
草思社より書籍化・全国出版/副賞として賞金60万円
『三島由紀夫という迷宮
〈英雄〉になりたかった人』
若き日より三島由紀夫を愛読してきた著者による読みごたえのある評論です。三島の著作などからの引用も巧みで、巧緻をきわめた構成というしかない作品でした。三島が東京・市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部で自裁したその日、駆け出しの新聞記者だった著者はその現場に赴き、その後、文芸評論家の江藤淳氏を訪ねて談話をとっています。本作品では、そうした衝撃的な三島体験を有する著者ならではの視点が随所に見られ、世を去って半世紀の時を経ても三島由紀夫という作家がアクチュアルな存在であり続けている理由が鮮やかに解き明かされています。
賞金5万円
『二百海里の前夜』
大学時代に経験した一か月にわたるオホーツク海での練習航海の日々を回想した手記です。学生運動が燃え上がっていた一九六九年、その同じ時期に水産学部の学生として経験した、「今思い出しても鮮明で、感動と苦しみが凝縮された短い夏」が臨場感あふれる筆致で描かれていて、読んでいて引き込まれました。また、若い時期特有の焦燥感や自負心といったものが船上でのエピソードにうまく語り込まれていて、そこも本作品の大きな魅力ではないかと思います。
賞金5万円
『高校へ行かないと決めた十四歳のあなたへ』
現在オーストラリアに暮らす四十代の著者が、高校に進学しないことを選んだ十四歳の時からこれまでの人生を振り返った作品です。「自分の足で歩く人生」の記録ともいうべき内容で、「本来、教育も生き方も一人ひとり違うオルタナティブなものであるはず」という視点は示唆に富むものだと感じました。この社会の「生きにくさ」ということがかなり前から言われていますが、生きやすい社会というのは選択肢が多い社会なのだということが実感をともなって理解できる作品でした。
今回、最終候補作として選定させていただいた9作品は、いずれも書き手自身の経験に根を下ろして執筆されたオリジナリティあふれる作品でした。長い人生行路の中で培われた独自の価値観・感覚、人生のある瞬間にだけ経験できる高揚感といったものが、いずれの作品も高いリーダビリティで表現されているように思いました。惜しくも入賞には至らなかったそれぞれの作品についても、簡単にご紹介し感想を述べさせていただきます。
『ルーブル美術館に留学を命ず』(小藤みすず)は、一冊の書物をきっかけとして博物館の世界で生きることを決めた若者の一代記で、知られざる博物館の世界とそこに生きる人たちの苦悩・奮闘が瑞々しい筆致でつづられた作品です。博物館、美術館の世界のバックステージで展開される物語はじつに興味深いものがあり、今後いろいろな博物館に行くたびにこの作品の描写を思い起こすことになりそうです。
『ピカソ・ゲルニカへの遠き道』(三本松稔)は、テレビ番組を制作するために故・筑紫哲也氏とともにパブロ・ピカソゆかりの地を訪れ、その代表作「ゲルニカ」の町では当時の生き証人にも取材するなど貴重な歴史の証言を収集した番組制作者が、取材の過程を克明に記録した回想記です。テレビの海外撮影というと優雅なイメージを抱きがちですが、実態はきわめて苛酷な旅の記録です。さまざまな制約がある中でいかにプロとして納得のいく仕事をするか、番組制作者のプライドがひしひしと伝わってくる作品でした。
『伝承者になった新聞記者の記録 〜被爆者にたくされた「空白の10年」〜』(中塚慧)は、被爆体験伝承者(被爆者の体験や平和への思いを受けつぎ、それを伝える人たち)として活動している現役の新聞記者が、これまでの自身の活動と問題意識を丁寧な言葉でつづった作品です。「体験を語り継ぐ」という作業はけっして生易しいものではないはずですが、各々の言葉に向き合って思索を深める真摯な姿勢こそ、歴史に向き合う上で大切なのだと改めて考えさせられました。
『風に立つ科学者でありたい』(杉山政則)は、微生物学の研究者によるユニークな科学論・科学者論です。科学の歩みをたくさんのエピソードを交えて振り返りつつ、これからの科学者像を展望する知的刺激に満ちた作品で、理系・文系問わず楽しく読むことができる作品ではないかと思いました。個別に興味深い指摘が数多くありましたが、特に短歌と科学の関係について述べられた一節などは、思わず膝を打つ思いでした。
『週刊漫画サンデー編集部 不朽の七転八倒記』(上田康晴)は、『静かなるドン』などを手掛けたベテラン編集者による回想です。タイトルどおり漫画史に残る著名作家たちとの悲喜こもごものエピソードが満載で、興味尽きない読み物でした。また、編集という仕事そのものの在り方を問いかけるような記述も随所にあり、その洞察には共感を禁じ得ませんでした。誤植をめぐる背筋が寒くなるようなエピソードが紹介されているのですが、身に覚えがある編集者は(私も含め)沢山いるのではないかと思ったしだいです。
『てんたん 戦中・戦後を生きた少女の生活史』(守野灯)は、少女のころ、「てんたん」と呼ばれていたという祖母の記憶を、孫である著者が凛とした佇まいの文章で再構築した味わい深い読み物です。なにげない日常の出来事を題材に、その時々の情景が目に浮かぶような巧みな描写で小さな物語が展開していくのですが、それは読んでいてじつに心地の良いものでした。そして何より、絵の道に進もうとして果たせず、それでも悠然と生きてきた祖母への静かなる敬意が作品全体にあふれていて胸を打たれました。