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あなたの知らないアメリカ文学の世界

2026年08月06日 【小説を書く】

小説家を志すあなたが読む本は、どんな本?

作家になりたいと胸に期す皆さんは、日ごろ、いったいどんな本を選んで読んでいるのでしょう? 好きな作家や好きなジャンルといった嗜好性は当然あると思いますが、それ以外に、作家として成長するための滋養になる本──という観点もおもちのはず。このブログでも古今東西たくさんの名著を切り口に記事を書いてきましたから、作家志望の方々のテキスト選びにあたって、いささかなりとも貢献できているとすればこの上なくうれしく思います。当ブログが一も二もなく、将来本を書きたい皆さんのさらなる成長の糧となる要素、ということを基準として本を紹介させていただいているのはいうまでもありません。今後ともご贔屓に……。

ということで、文筆・創作の進化・成長の糧となるのはどのような本であるのかということについて、ここであらためて確認しておこうではありませんか。理想的な意味でいうなら、それはおそらく作家の道半ばのタマゴたちには思いもよらないアイデアが煌めき、底知れない思索的な深みを覗かせる作品であるはず。あるいはまた、想像もできない圧倒的な世界観を確固と示す作品であるはずです。まさしく、そうした未知の世界へといざない、創作の地平を拓いていってくれる作品こそ、皆さんにはふさわしいといえましょう。

広い世界にあってなお特異な国、アメリカ

煌めきや深い思索性、真のユニークさをもった本を遺した巨匠や天才や異才は、世界各国にその事績を刻んできました。輝ける一等星の如き才能をもつ彼らは、さまざまな国とエリアにおいてその存在をオベリスクのごとく示しています。そしてその国や地域ごとに、属する文学や文学者たちには一定の類似性を見出すことができます。ロシア文学、フランス文学、ドイツ文学、南米文学……。たいていの場合文学には、その土地特有の色や匂いがついているものです。ところがです。同じように巨匠や天才や異才を輩出する国々にあって、ちょっと異なる特性を示す国があります。それが、アメリカなのです。

アメリカという国の地理的な広大さは誰もが知るところ。しかし作家志望者にとって、アメリカの広さと特性に真に目を瞠るのは、この国にしか現れないであろう類例なき作家に出会ったときではないでしょうか。文化や宗教といった人間のルーツが複雑に絡み合った雑多な人種社会、そのくせ新世界の自由さをも根底にもつアメリカ。そんな土壌にしか生まれ得ない彼らの物語は、しばしば同じ国の人々でさえ想像のつかない歴史や経験を映じます。そしてアメリカという国の教育体制は、さまざまな背景をもつ優秀な子どもたちに極めて高度な教育の機会を与えてきました。そう、それが結局、想像を絶する経験を秘めた家族の系譜のもとに生まれた少年少女に、ひときわ優れてユニークな小説を書かせることになるのです。

こんなルーツ探しの旅、これまでなかった

アメリカ特有の文学的土壌の豊かさ、地平の途方もない広さを実感させる作家に、ジョナサン・サフラン・フォアがいます。彼がデビュー作『エブリシング・イズ・イルミネイテッド』を書いたのは23歳のとき。『エブリシング──』は、作者と同姓同名のユダヤ系の青年ジョナサンが、祖父をホロコーストから救ってくれた女性を探してウクライナを旅する物語です。物語の背景に、作者自身の出自が関係していることはいうまでもありません。多読家の作家志望者なら、移民の二世や三世が自身のルーツを探す物語というのは、いろいろと覚えがあるのではないでしょうか。ところが、そうした数々のルーツ探しの物語と本作は、極端にいえば「ルーツ探し」という基本的なストーリーライン以外のすべてが異なっているのです。

冒頭から結末までの語り口が異彩を放つ。ジョナサンの思いは、お供であったアレックスに送る、旅での経験を小説仕立てにした文書となり言葉にされ、物語の語りの一角を占める。一方のアレックスの語りは、ジョナサンへの返信としての手紙と、独自の観察眼による手記というふたつの形式が用いられている。ことにアレックスの語りには、誤った語法や言葉遣いで演出される独特のおかしさがともなう。しかし、そうしたムードが漂っているからこそ、祖父の過去に触れる場面など、シリアスな部分の哀れみが助長される。「ユーモアだけが、悲しい話を真実として伝えられる」といった件が小説の中で出てくるが、アレックスの語りこそが、それをなぞるもののように思えてくる。

ジョナサン・サフラン・フォア著:近藤隆文訳『エブリシング・イズ・イルミネイテッド』内容紹介文より/ソニー・マガジンズ/2004年

ジョナサン・サフラン・フォアは、家族の悲劇的な歴史をじっと見つめ、悲劇性を十二分に承知しながら、その物語をなんとコメディに仕立てたのです。ほんのりとしたコメディ風味──なんてのとはわけが違います。斬新で、強烈で、圧倒的なコメディ。それこそはドラマティックで複雑なルーツをもち、アメリカという土壌だからこそ生まれた切れ味鋭いコメディなのです。

「アメリカ」と出会う、貴重で豊かな読書体験をぜひあなたも

前掲の作品紹介の一文、「ユーモアだけが、悲しい話を真実として伝えられる」という言葉の深淵に思いを致すとき、この作家を生み出したアメリカという国ならではの特質に感じ入らずにはいられません。しかもジョナサンがこの作品を描いたのは、前述のとおり23歳。若手の活躍を語る際の常套句「弱冠」なんて上から目線の言葉は、すぐさま投げ捨てなくてはならない偉業をその年齢で成したのです。

このような作家を生み育てるアメリカには、たとえあなたがかなりの多読家だとしても、さらなる未知の作家、埋もれた作家を発見・発掘する余地がまだまだありそうです。そんな作家や作品との出逢い自体も、我が小説を著そうという人にとっては、かけがえのない体験となるはず。アメリカ文学といえば『老人と海』のアーネスト・ヘミングウェイ、『トム・ソーヤーの冒険』のマーク・トウェイン、『モルグ街の殺人』のエドガー・アラン・ポー……。もしそれ以外のアメリカ人作家の作品を手に取ったことがないのであれば、ぜひこの機会にジョナサン・サフラン・フォアの『エブリシング・イズ・イルミネイテッド』をご自身へのプレゼントにされるのはいかがでしょうか? ……と言いたいところですが、すでにAmazonでも古書でしか手に入らないようです。しかし逆に、その稀少性が少し心をくすぐりはしませんか? 本稿執筆時点で約3,000円。ご自身の夢への投資を惜しんでいる場合ではありません。

※Amazonのアソシエイトとして、文芸社は適格販売により収入を得ています。

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