第8回文芸社文庫NEO小説大賞第8回文芸社文庫NEO小説大賞

NEO──それは、新しいこと。

「輝かしい未来」と「限りない可能性」を感じさせる新しい書き手を募集します。

文芸社文庫NEO小説大賞とは──?

文芸社文庫NEOレーベルの最大のヒット作『余命10年』を筆頭に、小坂流加作品は累計100万部を超える成功を収めています。2022年の映画版も大ヒットし、いまもなおその魅力が広く評価されています。また、このレーベルからは『BAMBOO GIRL』の人間六度氏や『月曜日が、死んだ。』の新馬場新氏など、権威ある賞の受賞作家が続々と生まれ、エンタメ小説市場に進出する新しい才能の登場を楽しめるコンテストにもなっています。文芸社文庫NEOは、さらなる新進の才能をお迎えすべく、本年も「第8回文芸社文庫NEO小説大賞」の作品募集を開始いたします。次に輝きを放つのは、あなたかもしれません!

同レーベルの作家たちが身近に感じられるこちらの記事もお楽しみください。
文芸社文庫NEO作家特設コンテンツ - 前編
文芸社文庫NEO作家特設コンテンツ - 後編

最終選考結果発表
(2025.4.30発表)

・*・.:*・ 大賞 ・*:.・*・

文芸社文庫NEOより書籍化・出版/副賞として賞金30万円

『猫の辞書』

真介

真介「猫の辞書」講評

過去の出来事をきっかけに、自分の想いを言葉にすることが苦手になってしまった青年・文人。本作はそんな彼の前に突然現れた、不思議な少女・アヤとの交流を描いた爽やかな青春小説である。ファンタジックな構成の中に「夢への挫折やSNSにおける誹謗中傷」など現在の若者を取り巻く様々な要因を丁寧に組み込んでいる点が好印象であった。また、出会った当初は言葉を話すこともままならない状態であったアヤが、文人に薦められた辞書をきっかけにして、自分だけの言葉を集めていくというストーリーラインには読者をひきつける普遍的な魅力が感じられた。章の合間に、作中でアヤが集めた言葉を辞書表記のような形式で挟んでいる点にも、書き手のセンスが見て取れる。読者は不器用なふたりの心温まる交流にだんだんと感情移入を重ねていき、最後に明かされるアヤの正体と想いに思わず涙をこぼしてしまうだろう。誰が読んでも楽しめるオーソドックスな青春小説としての良さと、しっかりと考えられた独自性のある設定。青春のきらめきを失わずに、情熱をもって最後まで書き上げられた本作は、間違いなく大賞に相応しい作品である。

総評

ふと気づけば「文芸社文庫NEO」レーベルの創設から8年という月日が経過し、同年に誕生した「文芸社文庫NEO小説大賞」も第8回目を迎える年となった。「輝かしい未来」と「限りない可能性」を感じさせる新しい書き手を募集します──というコンセプトから「NEO」という名前がつけられた本企画が、毎年様々な作家さんが誕生する場となりつつあることを、非常に嬉しく感じる。届いた原稿をひとつひとつ大切に拝読させていただきながら、まだ世に出ていない傑作を求めて、今年もまた選考に臨ませていただいた。

今回、最終選考作品として選出されたのは7作品であった。過去の回と比べてもバラエティに富んだ作品が寄せられ、それに伴い選考委員のあいだでも「推す作品」において意見が分かれやすくなった。さて、大賞を受賞した「猫の辞書」に関しては先に触れているので、ここでは最終選考作品に選ばれたそのほかの個性豊かな作品について触れていきたい。

「あの夏にいたドッペルゲンガー」は斬新な設定とノスタルジーを感じる描写が印象的な恋愛小説であった。最後まで人物を絞って「二人の千夏」との関係性を描き切った点は選考会でも高く評価されており、恋の結末まで読者を引っ張っていける魅力的なストーリーであることは間違いがないだろう。その一方で、主人公が下した決断に対しては賛否両論があった。その真新しさは評価できるのだが、その決断に対して読者が納得できるほどの動機づけが示されていない点が惜しい。一見すると普通ではないラストだからこそ、今一度そこに至る過程を見直していただきたい。そこが修正されれば、より素晴らしい作品となるだろう。

大学における学生コンテストをテーマに、学生たちの成長や教授同士の権力闘争を織り交ぜた「ゼミコン」は、実際のキャンパスライフを想像できるようなリアルな描写が魅力的な作品であった。教授目線から見た学生たちのきびきびとした描写や、その陰に隠れた若者ゆえの苦悩には思わず共感してしまうほど真に迫るものがあった。評価が分かれた点は、コンテストに挑戦する学生たちと教授たちの学内における権力闘争が作中で相互に作用していない点である。どちらかをメインに据えることで、話の方向性が明確になり、全体を整理することができるだろう。

近未来のクローン技術を題材にした青春SF小説である「君はプロトタイプ」は、選考会でも高い評価を受けていた。特にクローン同士の関係性を少年少女の青春に落とし込んだ点には書き手の高い実力が見て取れた。導入の表現や登場するキャラクター造形も魅力的である。他方で、話の展開や設定において選考会では意見が大きく分かれた。話を読み進めるうちに、その世界観を段々と理解できるような構成になれば、先に評価された要素がより輝くであろう。

「三人暮らしの雪だるま」は、丁寧に日常を綴った文章が魅力的な心温まる小説であった。ふとしたきっかけで交流が始まった登場人物たちが、同じ時間を過ごしていく中でお互いに成長していく様子には誰もが心を動かされるだろう。好意的な意見も多く、全体的な評価は高い作品ではあったが、俯瞰した目線で考えたときに盛り上がりに欠けるという意見も共通していた。この作風を土台にして、新しい切り口で作品を書き上げることができれば、より誰かの心に刺さる作品を生み出すことができるだろう。

京都の治療院を舞台にした「ここなか診療所春秋」は、個性的な面々を生き生きと描いた古き良き風情を感じる作品である。登場人物たちは皆、巧みな書き分けのもとで自由に活躍しており、自然と頭の中に彼らの表情が浮かんでくるようであった。特別なことを起こさずとも読者を引き込んでいける文章には、書き手の確かな技量が感じられるだろう。惜しむらくは、中野医師が抱えていた問題を最後まで明らかにせずに話を畳んでしまった点である。ぜひ、もう一度ラストを見直していただければ幸いである。

「花音─完璧な遺伝子を持つ少女─」は「毒親」をテーマにした物語であり、非常に完成度の高い作品であった。どろどろとした情感をもって迫りくるような作品の文体には、非凡な才能を感じる。しかし、選考員からは「無難なエンドに辿り着いてしまった」「前半から中盤にかけての不穏なストーリーで最後まで駆け抜けて欲しかった」という意見が多く寄せられた。難しい要望かもしれないが、突き抜けた作品を目指して、もう一度作品と向き合ってほしい。

選考会においては、今回も各自の推薦作品をもとに熱い議論が交わされた。その過程ではじめて気づかされることもあれば、あらためて作品の良さを再認識することもあった。各自の評価基準をすり合わせていく中で、共通項としてあったのは、「純粋な話の面白さ」と「作品の独自性」のバランスである。小説としてよく書けているという大前提の上に、このふたつの要素が作品ごとに独自の形で成り立っており、そこに作家性というものが現れてくる。その中で大賞に選ばれた作品は、自身の独自性を遺憾なく発揮していた。しっかりと考えられたバランスの上にこそ、人の心に届く名作が生まれ来るはずである。以上の点を踏まえつつ、書き手の方々には今後も創作活動に励んでいただきたい。

最終選考ノミネート作発表
(順不同・2025.3.31発表)

  • 花音─完璧な遺伝子を持つ少女─
    鈴木 文
  • 猫の辞書
    真介
  • ここなか診療所春秋
    田崎 千草
  • あの夏にいたドッペルゲンガー
    ストレージ逼迫侍
  • 三人暮らしの雪だるま
    広瀬 翔之介
  • ゼミコン
    中野 雅至
  • 君はプロトタイプ
    真鳥 カノ

PAGE TOP