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妖精の国に遊び絵本を描き、童話を書く

2021年06月28日 【絵本・童話を書く】

ゆかいな仲間たちと冒険が織りなす物語にはファンタジーの原点がある

海にほど近く、豊かな自然に囲まれ、小川の畔にはライラックが咲き乱れ……と聞いて、その谷がどの谷かわかる方はいらっしゃるでしょうか。難しいですね。では、そこには妖精たちが暮らしており……と付け加えれば、察しのいい方ならピンと来るのではないでしょうか。

答えはムーミン谷。そう、トーベ・マリカ・ヤンソンが創作した主人公のムーミントロールとその家族、仲間たちが生きる世界です。1914年にフィンランドのヘルシンキで生まれたトーベは、幼き日に「キッチンにはムーミントロールというオバケがいるんだぞ」と家族に聞かされたその「オバケ」を空想して何枚も絵を描き、のちに『小さなトロールと大きな洪水』という小説を発表します。齢30と少し、時代は第二次世界大戦が終結する1945年のことでした。これが、その後に小説や絵本、アニメと数多の作品となって世界中に羽ばたく『ムーミン』シリーズの第一作になります。ただ、時代性ゆえ『小さなトロールと大きな洪水』には戦争が影を落とした空気感があり、その後の誰もが知るムーミンの世界観とはちょっと違っています。

もう少しあとの作品、小説第三作となる『楽しいムーミン一家』になると、多くの日本人にも馴染み深い世界観が展開されてきます。テレビシリーズのはじめの8話のもととなったこの作品には、冒険や不思議な出来事がふんだんに詰め込まれていて、今日のファンタジーの原型やエッセンスはすべてここから生まれたのか!? と思われるほどに多彩なストーリーが存分に楽しめるのです。物語は、長い冬眠から目覚めたあとのムーミンと仲間たちが不思議な帽子を拾ったことからはじまります。帽子をかぶったムーミンがおかしな姿に変身してしまったり、家のなかがジャングルに変わったり、魔物にすごまれたりと、矢継ぎ早にファンタジックなエピソードが盛り込まれ目を離せない展開。そのくせ魔物が叶えてくれるムーミンたちの願いはといえば、取るに足らないほんのささやかなもので、そうした素朴さにムーミン物語の原点を見ることができます。『ムーミン』シリーズの魅力と世界観を世に知らしめた本作は、冒険に次ぐ冒険を描いているのに、そこにあるのは息を詰めるようなスリルというより、ほのぼのとして温かな感動を呼び起こすムーミンの世界です。初作で描いたような戦争がもたらした時代の暗がりから、作者トーベ・ヤンソンが目覚め脱したことを表しているのかもしれません。

絵本・童話に命を吹き込む「哲学」

1969年に日本で制作されたアニメ『ムーミン』は、やがて世界中で人気を博すことになりました。国を越えてもっとも認知され親しまれているのは、この日本版アニメといってよいでしょう。ところで、絵本・童話作家になりたいあなたは、創作するときに何を一番に考えますか? 子どもが喜びそうなお話? 子どもにわかりやすいストーリー? ――確かに読み手のほうを向いて創作に取り組む姿勢は大切です。でも、そんな姿勢は同時に、子どもを侮る態度と表裏一体であることを忘れてはいけません。子どもに深遠で難しいテーマなど無用と考えるならば、それは大きな誤りなのです。人間の行動原理を読み解く学問が「哲学」であるとするなら、生まれ落ちた瞬間から私たちはその種子を育てているはず。つまりは、子どもだって哲学と無縁ではないということ。絵本や童話の世界においても、哲学的なテーマや思考は不可欠な要素であることはいうまでもありません。

成蹊大学教授の瀬戸一夫氏は、日本版アニメ『ムーミン』を俎上に載せ『ムーミンの哲学』を著しました。哲学のフィルターを通してアニメや童話を楽しむことは、ひょっとすると難しいかもしれません。けれど、純粋に楽しむということはいったん脇に置いて、哲学という切り口からそれら作品の内部構造を覗くことによって、楽しく心地よい物語の奥の「芯」に触れられる可能性を無視するわけにはいきません。それはアニメや絵本や童話という一見単純で親しみやすいコンテンツの、揺るぎない土台と深遠な主題を知る方法でもあります。物語を“家”に見立てるならば、ヤワな土台ではいつ崩れないとも限りません。絵本や童話とてそれは同じなのです。

絵本・童話世界のなかの「メンター」に目を向ける

世の中にはね、自分の思い通りになってくれない相手のほうが多いんだよ。おべっかばっかり使って友達になろうとするやつも同じくらい多い。だけどムーミン、僕はそんなやつが大嫌いさ。

(トーベ・ヤンソン著/サミ・マリラ編/渡部翠訳『スナフキンの名言集』講談社/2010年)

ファンタジーのなかにはしばしば「メンター」と呼ぶべき存在が登場します。メンターとは「よき指導者」や「優れた助言者」という意味。たとえば映画『スター・ウォーズ』では、オビ=ワン・ケノービやヨーダがこの役割を担っています。そして『ムーミン』シリーズでのメンターは「スナフキン」。自由と孤独と旅を愛するスナフキンは、仲間たちと冒険をともにしながらも常に放浪を求めて去っていきます。『ムーミン』に登場するキャラクターのなかで、実は主役のムーミンをしのぐ人気を集めていたのがスナフキンでした。クールでニヒルなスナフキン、隅に置けませんね――という話ではありません。あの哲学者然と佇むスナフキンが、主役の向こうを張るというこの事実は何を意味するでしょう。それは、子どもたちがスナフキンを「カッコイイ」と感じ憧れを抱いた――ということなのではないでしょうか。群れない態度、人とは違う生き方を貫く姿勢、そうしたスタイルが醸す独特の孤高性を、本作の幼き鑑賞者たちは我知らず「イケてる」と感じとったのでしょう。

この世にはいくら考えてもわからない、でも、長く生きることで解かってくる事がたくさんあると思う。君たちも大人になればわかるさ。ある意味で、大人は子どもよりももっと子どもみたいになることがあるんだよ

(同上)

こんな禅問答にも聞こえる彼の言葉に、「何言ってるんだよこの人は」と本を放り出す子どもはいません。むしろその言葉は、心の奥底に宿り、成長するごとに育って、いつしか大切な教えとして刻まれるのでしょう。

ムーミンというキャラクターの原型は、幼いトーベ・ヤンソンが空想した妖精です。それを、大人になった彼女自身が描きました。ムーミンの物語、妖精たちが生き生きと暮らし冒険する世界には、人間世界の理想的なありかたが反映されています。この事実が示しているのは、架空のキャラクターが活躍する絵本や童話を書くその第一歩には、人間世界とその行動原理への考察があって然るべきだということ。絵本や童話、ファンタジーという現実から離れた世界であればあるほど、人間の本質を知る意識が必要になってくるのです。でも、それを理解するのに難しい勉強は必要ありません。いま再び『ムーミン』を手に取り、ムーミンと仲間たちが活躍する世界で心遊ばせ、作品の「芯」を探ってみてください。それは、絵本・童話作家になるための何より楽しい学びの機会となることでしょう。

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