本を出版するなら─文芸社。「出版」のこと、気軽にご相談ください。
平日9:30〜18:30通話無料
0120-03-1148問い合わせ
検索
書籍検索
フリーワード検索
ジャンル検索
小説
エッセイ
童話・絵本・漫画
画集・写真集
教育
実用
語学
社会
ビジネス
医学・健康
看護・闘病
伝記・半生記
歴史・戦記
詩集
俳句・短歌
地理・紀行
自然・科学・工業・学術
哲学・心理学・宗教
芸術・芸能・サブカルチャー
スポーツ
雑誌・学参・その他
Blog
革命──それはかつて、理想を胸に抱く、わけても純粋な青年たちの血と精神を滾らせる言葉でした。こと「革命」というと、学生運動が盛んであった60年代後半にすでに“大人”であった方々には、いまだ警戒心を抱かせるかもしれませんが、その後の世代では徐々にイメージも軟化し、小室哲哉作曲による渡辺美里の『My Revolution』などをふと懐かしく思い出される方もいるでしょう。その2年後には、同じく小室氏の『SEVEN DAYS WAR』が主題歌の映画『ぼくらの七日間戦争』が放映。中学生の家出が一種の革命的行動として見られるほどに、「革命」の文字はいよいよコモディティ化していきました。そしていまや危なっかしいイメージは完全に拭い去られ、思いっきり体制側であるはずの会社組織さえ、企業スローガンに「革命」の文字を取り込んだりもしています。“煮え切らない今”を、地つづき路線ではない新進の方法で脱する策、それが現代日本における「革命」の字義なのかもしれません。ちょっと泥臭い情熱を帯びているかのようなニュアンスがまた、商品の宣伝文句などでも使いやすいのでしょう。しかし革命とは本来、時代によらず、場所によらず、年齢にもよらず、人の心にとって必須栄養素のごとき欠くべからざる言葉でもあるのです。そう、それは個人の存在性において、また人生においても──。
そもそも「革命」とは、世に変革をもたらすことであり、社会的な制度や構造をも大きく変えることを意味します。だからこそ、抑圧された社会体制下ではとりわけ胸を熱く昂らせる思想であったわけです。いまや飽和状態ともいえる民主主義社会において、誰もが多少の不満があるにせよ、体制の転覆を狙って腰を上げようという人はまずいないでしょう。よほど苦節に満ちた境遇に長く置かれないと、それほどのモチベーションをまずもちようがありません。そういう骨抜きにする社会システムが……という話はさておき、社会転覆を目論まないからといって、「革命」という言葉とその本質的な意味を、誰もが忘れ去るのは国家の未来にとってさえも好ましいとはいえません。だって、人の心や意識にこそ変革は必要なものだからです。そしてその革命の精神を、心という器のなかで高らかに響かせるように教えてくれる文学が「詩」なのです。
韓国の金芝河(キム・ジハ)、フランスのブレーズ・サンドラールらも、革命的精神を謳った詩人として忘れられません。そしてもうひとり、明るい一閃の流れ星のごとき存在感を放った詩人がいます。19世紀末のロシア帝国クタイス県(現ジョージア・バグダディ)に生まれたその詩人の名は、ヴラジーミル・マヤコフスキー(1893-1930)。当ブログへの登場数えること10回ほどにもなる我らが金子光晴も、晩年に近いインタビューにおいて、記憶に残った詩人はいるかとの問いにマヤコフスキーの名を挙げています。マヤコフスキーはまさしく革命的な詩語をもって世に旋風を巻き起こした稀有な詩人のひとり。精神の革命を、剣のごとき言葉を叩きつけるように荒々しく詠った青年詩人なのです。胸に満ちる矜持を絢爛と謳い上げた若き日の金子光晴が、遠いロシアの後代の詩人マヤコフスキーになぜ惹かれたのかもわかる気がします。
革命の精神を、その純粋な昂ぶりをもって鮮烈に映し出すマヤコフスキーの詩。ためらいのない、叩きつけるような詩語の数々は、読む者を奮い立たせるメッセージとはいかに表現すべきものかを、嘲笑を響かせるように突きつけます。ふと周囲を見渡してみれば、「元気を出して」と芸なく繰り返してもせいぜい生返事が返るのが関の山……というセオリーを忘れ、直截的なフレーズで表現しようとする“言葉”がどれほど氾濫していることか。詩の言葉とは、色であり、鋭さであり、勢いであり、まことに精彩に富んだイメージ。それらをこれでもかと研ぎ澄ませて詩語を編むことで、訴える力をもった詩が生まれるのです。
きみらが考えること、
ふやけた脳味噌󠄀でぼんやり考えること、
垢じみたソファで寝てる脂肪太りの召使にも似たそいつを、
ぼくは焦(じ)らしてやる、心臓の血みどろの襤褸(ぼろ)にぶつけて。
飽きるまで嘲り蹴ってやる、鉄面皮に、辛辣に。
ぼくの精神には一筋の白髪もないし、
年寄りにありがちな優しさもない!
声の力で世界を完膚なきまでに破壊して、
ぼくは進む、美男子で
二十二歳。
「ボディ・ポジティブ」や「ルッキズム」といった欧米発の言葉たちが、現在の日本社会にも浸透しつつあるように見える一方で、古式ゆかしき「謙譲」を美徳とする精神もまた、いまだに根強い価値観として私たちのなかに存在しています。──というような議論を一蹴するようなマヤコフスキーの「ぼくは進む、美男子で」。事実マヤコフスキーは自他ともに認める美男で、しかしそれが何だというのか、美しい容姿はたまたま生まれもった自分という個体の一要素、取り立てて自慢するまでもなければ否定する意味もない、「ぼくには清らかな心がある!」と宣言しているのと何ら変わりない、ひとつのファクトに過ぎないというかのようです。「二十二歳」という若さにしても、若さを誇れる時代はあっという間に過ぎるんだよ……といったワケ知り顔の言いがかりもマヤコフスキーは一蹴します。隠しもしなければひけらかすでもなく、ただ己がいま大地に在る姿を高らかに示しただけのことなのです。もちろん、若さの傲慢を革命的な精神と定義するわけはありません。そのことは、三十路を過ぎた彼の長詩──亡きレーニンに捧げた作品が雄弁に語っています。
ロシア共産党に捧げる
時間だ。レーニンの話を始めよう。けれども、悲しみが失せたから始めるのではない。時間だ。なぜなら、するどい寂しさは、意識的な確かな痛みに変化した。
時間だ。レーニンのスローガンを、ふたたび竜巻に挙げろ! ぼくら、涙を垂れ流すものか。レーニンはいまでも生者の中の生者。ぼくらの知識、ぼくらの力、そして武器。
1
人間は舟だ。陸(おか)の舟。一生のうちに、さまざまな汚いフジツボが、ぼくらの腹にひっつく。さかまく嵐を切り抜けたあと、舟は日向に寝そべって、海の藻のみどりの鬚や、水母(くらげ)のまっかなねばねばを殺(そ)ぎおとす。ぼくはレーニンの光をあびて身をきよめ、革命の海に船出する。
──詩人なら詩人らしく詩の商いだけやっていればいい、という御意見もありますが……自分が詩人であることなど、わたしは糞くらえと言いたい。わたしは詩人ではなくて、何よりもまず自分のペンで奉仕する──よろしいですか、奉仕する人間です
(同上)
おいおいマヤコフスキーはどこに行った? と思うほどの謙譲の精神! しかしこれをストレートに受け取ってはなりません。これこそがマヤコフスキー流の同業者への痛烈な揶揄のメッセージなのです。それは我こそ「詩人」などと上段にかまえる者どもへ投げかけた言葉であり、人間本来の誇りを突きつける一文なのです。ペンによる奉仕──そう、これぞ、作家・詩人になりたいと志す者が胸に宿すべき「革命的」な精神ではないでしょうか。少年のころから政治運動に参加し、未来を夢見たマヤコフスキー。やがて政治から身を引き、絵画を経て詩に行き着くと、芸術革命家として詩才を揮いました。既存の詩法、文法、音韻を破壊した、新鮮で生々しい詩の数々を、大勢の聴衆を前に大声で読み上げたのです。当時、マヤコフスキーが心酔していたレーニンが体現した革命的思想には、死刑もテロリズムも辞さない強度の暴力、恐怖による支配、既存の宗教や法律などの破壊が含まれます。十月革命を「私の革命」と熱烈に評価したマヤコフスキーの作品群に、ある種の強さが感取できるのには、こうした背景にあるのかもしれません。
残念ながらマヤコフスキーは、自殺と思われる死を遂げました。36歳のまだ若い死。彼の「革命」は、結果的に彼自身に意味をもたらさなかったのでしょうか? いいえ、そうではありません。もとより、革命的な精神とは、命を長らえさせ幸福を保証する護符ではありません。それは、猛々しい風を呼ぶ力であり、変革を期する純粋な意志なのです。ゆえに純粋な意志の結晶たるマヤコフスキーの詩は、少しもその輝きを失うことなく、彼自身が消えたあとも、そして私やあなたがこの先の世界から消えようとも、未来永劫永遠に生きつづけることでしょう。詩人として生きるのならば、そんな詩をひとつでも世に生み落としたいと思いませんか?
※Amazonのアソシエイトとして、文芸社は適格販売により収入を得ています。
2024/09/05
7
「師」として漱石が照らした道 夏目漱石が教職に就いていたことはよく知られていますが、根のところでも極めて秀でた「師」としての資質を湛え ...
2024/05/20
7
人間は愚かなり 種々の欲望に振りまわされ、煩悩に心を挫く人間。その愚かさや不完全さは、多少の差こそあれすべての人間がもちあわせているも ...
2022/09/13
7
作家になるための最重要要素 大人と子ども、一流と二流、あるいは大将と一兵卒の差といったら何でしょう? 実力、真価、胆力、財力……いろい ...
2025/06/12
6
実は深遠なる命題──人はなぜ娯楽小説を紐解くか ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)ともいわれるように、人は本質的に「娯楽」を求めてやまないもの ...
2025/05/30
4
嫌われるペダンティック、好まれるペダンティック──その魅力に迫る
そもそも「ペダンティック」って何? 「ペダンティック」とは「衒学的(げんがくてき)」の意で、古代ギリシア語に語源を見出せます。もともと ...
2025/04/30
6
創作の壁を乗り越える一手 ああ書けない! 自分には小説なんて書けやしない! アイデアも行き詰った! もうダメだ! 自分には才能なんてな ...
2025/04/17
4
「死生観」──さて、あなたはどう描く? 日本人の「死生観」……なんていうとちょっと大仰になってしまうので、もっとシンプルにお訊きします ...